研究概要 |
生体の遺伝情報を伝えるDNAは、その大きさが数10μmから数cmにもおよぶ巨大分子であり、細胞内ではコンパクトに折り畳まれた凝縮状態で存在している。このようなDNAが細胞中、その折り畳み構造をどの様に変化さるのかを解明することは、遺伝子の機能を明らかにする上で重要な課題であると思われる。本研究では、単一分子鎖法の活用により、長鎖DNAおよび再構成クロマチンの動的な高次構造を追究し,細胞内環境条件(イオンやATPさらに遺伝子発現に関係する生理活性物質)が高次構造にどのような影響をもたらすのかを明らかにすることを目的とした。さらに、再構成クロマチンを用いた,in vitroでの転写、発現の実験も並行させて推進し、遺伝子活性の自己制御の機構の解明をめざした。 [研究経過および成果] 1.DNAを内包した細胞サイズのリン脂質小胞体(リポソーム)の生成手法を確立し、この系が細胞のモデルとして有用であることを示した。さらに、その応用として、抗がん剤であるダウノマイシンによる、細胞サイズリポソームに内包したDNAへの作用を調べたところ、ダウノマイシンは、リポソーム内のDNAに対して、分子鎖を引き伸ばし、脱凝縮させてから切断反応を引き起こすことを明らかにした。 2.ビタミンC(アスコルビン酸)がDNAの高次構造に及ぼす影響を調べ、単一のDNA分子の中で、コンパクトに折りたたまれた凝縮部分と、コイル状に引き伸ばされた部分が共存する、"pearling"構造が誘起されることを見出した。 3.長鎖DNAから再構成したクロマチンを用いて、活性酸素によるDNAの二本鎖切断反応を観察し、ビタミンCによってどの程度抑制されるのかを測定した。現在、定量的な解析を進めている。 4.DNAの高次構造と遺伝子活性との関連性を明らかにするため、長鎖DNAを用いた転写実験を現在行っている。
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