肝臓は免疫反応が収束する際、リンパ球の活性化後細胞死が起こる場所であり、それは免疫系の恒常性の維持や自己免疫からの回避に重要である。肝臓における活性化後細胞死の機序を検討するなかで、マウス肝細胞を一次培養した培養上清による、抗原刺激されたT細胞クローンならびにTリンパ腫細胞に対する増殖抑制作用を見い出した。生化学的検討では、この増殖抑制作用はカスパーゼ依存性のアポトーシス誘導によることが示された。このアポトーシス誘導作用は、トリプシン、70度の熱処理、pH5以下の酸性状態で失活したが、TNF-α、FasL、TGF-βなどに対する抗体で中和できなかった。培養上清から単離し純化したアポトーシス誘導分画は分子量68kDaの蛋白分子であった。これは、マウスT細胞、B細胞に、また弱いながらヒトのリンパ球にアポトーシスを誘導したが、マクロファージには誘導しなかった。以上より、マウス肝細胞から同定されたアポトーシス誘導蛋白は、リンパ球に選択的にアポトーシスを誘導し、肝臓における免疫抑制の機構の存在の可能性が示唆された。病原体感染とこの蛋白分子の産生の関連を調べるために、肝細胞をLPS、ペプチドグリカン、フラゲリンおよびCpGDNAなどで刺激し蛋白発現を検討した。しかし、いずれにおいてもアポトーシス誘導蛋白の発現変化を認めなかった。一方、日本住血吸虫卵特異的T細胞クローンにて、リンパ球の活性化とアポトーシス誘導活性の関連を調べた結果、活性化T細胞において感受性が亢進していた。以上より、感染症におけるアポトーシス誘導活性は、肝細胞におけるアポトーシス誘導蛋白の産生亢進より、むしろ抗原特異的に活性化されたリンパ球のアポトーシス誘導蛋白への感受性亢進が重要であると結論付けられた。
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