研究概要 |
腫瘍やガン細胞株にはFas, FADD,カスパーゼ-8を発現しているにもかかわらずFasを介する細胞死に対し強い抵抗性を示すものがある。従来、このような細胞ではFLIPがDISCの形成を競合阻害し、結果的に細胞死に対して抵抗性を示すと考えられてきた。我々はFas非感受性の腫瘍細胞株に低濃度のCychloheximideを同時に与えると細胞死に強い感受性を示すようになり、細胞死感受性の細胞株では感受性がさらに高まることを見出した。このような細胞株ではFLIPの有意な発現は認められず、感受性の変化とFLIPの発現量にも相関関係は観察されなかった。このことから、Fasを介するアポトーシスを調節する未知の分子機構の存在が示唆され、さらに解析を試みた。各種造血系の腫瘍由来細胞株のFasの発現を調べ、発現が認められた細胞株において、Fas刺激に対する非感受性細胞株を新たに選択した。それらの細胞において、DISCの形成に必要なCaspase-8, FADDの発現、またDISCにおけるアポトーシス阻害因子であるc-FLIPの発現を調べた。その結果、すべての細胞株においてCaspase-8, FADDの発現が認められた。c-FLIPの発現は、YT細胞においてのみ確認された。また、ML-1細胞においてFADDが異なった分子量として検出され、FADDに未知の分子形態が存在する可能性が示唆された。、一方、YT細胞においてはCaspase-8が切断を受け、活性化される際の中間体中間体が検出されたが、活性化Caspase-8は検出されなかった。また、FLlPも切断を受けた中間体として検出されることから、この細胞ではc-FLIPがCaspase-8活性化を阻害していることが示唆された。 次に、Fas刺激におけるDISCの形成を検証するために、これらの細胞株の細胞溶出液をゲル濾過カラムChromatographyにより解析を行った。その結果、どの細胞株においてもDISCは検出されなかった。また、免疫沈降法によってもDISCを形成する分子間の複合体は認められなかった。この結果は、これらの細胞株はFas刺激によるDISCの検出が難しいと言われている(タイプIIと呼ばれる)細胞群に属することを示唆する。細胞死を誘導してない細胞溶出液においてもFas, Caspase-8, FADDやc-FLIP間の複合体も検出できなかった。さらに、c-FLIPを発現するYT細胞においてもc-FLIPとCaspase-8、FADDとの相互作用は検出されなかった。Caspase-8に比べて極めて少量しか存在しないc-FLIPがどのようにCaspase-8の活性化を効率よく阻害できるのかは不明であり、今後はc-FLIPの阻害機構の解析を明らかにしたい。
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