アポトーシスの実行因子であるカスパーゼ族は健常細胞中では不活性な前駆体として存在している。カスパーゼ前駆体がプロセスされて活性化するステップは、細胞がアポトーシスへ進むかどうかの重要な決定点の一つであるので、このステップの制御に焦点を当てて研究を進めた。 「平成14年度」カスパーゼ-12活性化制御因子の同定を行った。マウス・カスパーゼ-12に結合し、その活性を正または負に制御する因子を酵母2ハイブリッド法によって探索した。探索相手としてHeLa細胞のcDNAライブラリーを使用したところ、腫瘍特異的蛋白質の一つ、MAGE-3(Melanoma associated antigen-3)がカスパーゼ-12特異的結合蛋白質として得られた。MAGE-3はカスパーゼ-12前駆体に結合し、その活性化(プロセシング)を抑制することが判明した。MAGE-3を高発現させた培養細胞株を樹立した。この株は小胞体ストレスに対して抵抗性を獲得した。 「平成15年度」もともとMAGE-3を発現している腫瘍細胞株ではMAGE-3がアポトーシス制御に何らかの機能を果たしている事を仮定し、アンチセンスRNAやアンチセンスcDNAによってMAGE-3量を低下させたところ、細胞によっては小胞体ストレスに対する感受性が有意に上昇する結果を得た。 MAGE-3にFLAGタグ配列を付与したものをトランスフェクションによりヒト細胞株293Tで大量発現させた。トランスフェクタントから細胞抽出液を調製後、FLAGタグに対する特異的抗体によってMAGE-3を沈降させた。MAGE-3と共に沈降してくる蛋白質がSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による解析で20種以上検出された。現時点ではカスパーゼ類似蛋白質は検出されていないが、解析したものの多くは小胞体内外に存在する蛋白質である事から、第二の結合因子が含まれている可能性について検討している。
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