研究概要 |
RUNX遺伝子ファミリー(RUNX1,RUNX2,RUNX3)は、遺伝子発現調節をつかさどる転写因子として機能することが知られており、ショウジョウバエの体節形成に重要とされるsegmentation gene RUNTと高いホモロジーを有しており、ショウジョウバエからヒトまで進化の過程で高度に保存されてきた遺伝子群である。RUNX遺伝子ファミリーはヒトの疾患に深く関わる重要な遺伝子群であることが明らかとなってきている。今回我々は、世界に先駆けてRUNX3ノックアウトマウスを作製し、その解析をおこなったところ、胃粘膜の高度の過形成を認めた。これまでノックアウトマウスで胃粘膜に表現型の変化が認められるものは極めて珍しく、RUNX3遺伝子が胃粘膜の発生や分化に重要な役割をはたしており、この異常が胃粘膜の脱分化や異常増殖や癌化に関連する可能性が考えられた。これまでに胃癌細胞株及び臨床検体におけるRUNX3遺伝子の高頻度のコピー数減少、発現低下、1例に機能喪失型変異を確認した。 これまでに我々は酵母のtwo hybrid systemを用いてRUNX3と結合する分子を複数個同定している。このうちCAF1(chromatin assembly factor1)は染色体分離に必須の分子でありRUNX3と生体内で協調して細胞の増殖や分化、細胞分裂に関与している可能性が高い。ヒトにおけるCAF1の機能及び癌への関連は未だ明らかではないが、植物でのCAF1ノックアウトで花弁形成に異常が生じることより生体の発生や分化に重要な働きをしていると推測される。これまでの実験より胃癌細胞株の約50%でCAF1の発現低下を確認している。またCBFbはRUNX3と結合して、その転写活性、DNA結合能を修飾することがしられている。またCBFbは16番染色体長腕16q22-23にマップされる。この領域は乳癌、前立腺がんの共通欠失領域のひとつであることが知られている。これも消化器がんの新規がん抑制遺伝子の一つである可能性があり、消化器がんでの発現、コピー数変化、変異の有無を検討する。膵臓癌、肝細胞癌、胆管癌におけるRUNX3遺伝子の関与の可能性について細胞株や臨床検体を用いて検討し、そののコピー数変化や、遺伝子変異、発現低下のメカニズムや臨床病理学的因子との関連を検討する。将来的にはRUNX3遺伝子の異常を指標とした遺伝子診断や遺伝子治療への応用を試みる予定である。
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