本年度は、フランス哲学における生命論的思考の意味を考察する研究の基礎的部分として、概念史的研究と現代における体系的な思考の検討という二つの作業を行い、具体的には次の研究成果を得た。 1/概念史的研究:当初研究を進める予定であったビシャに関しては、テキス卜の入手が遅れたので、それに先立ち、19世紀の動物学者ジョフロワ・サン=ティレール(Geoffroy Saint-Hilaire)の思想の検討を進めた。『解剖哲学』の検討によって、その「プランの統一性」の思想の概略を確認した上で、『動物哲学の諸原理』(1830)をもとにキュヴィエとのいわゆる「アカデミー論争」の思想的意味の解明に努め、その「プラン」の思想がもつ、構造主義的とも言えよう特質を取り出し、この点に関するドゥルーズの解釈を明確化した。この解明の過程で、18世紀から19世紀におけるラマルク以来の生物学思想の思想史的研究の重要性が自覚されたので、ビシャに関する研究と共に来年度の課題としたい。なお、以上と直接関わるわけではないが、タルドの社会学思想の哲学的基礎である「ネオ・モナドロジー」仮説の意義を検討したが、これはライプニッツを一つの源泉とする生命主義の展開の一つの形であり、本研究の一環をなすものである。 2/体系的思考の研究:シモンドン思想の検討を特にその個体化論に絞って行った。前個体的なエネルギーの場からの個体の発生を《transduction》によって可能になるとする議論は、極めて重要な哲学的な斬新さを有しており、纏まった論考を準備中である。なお、このような個体化論が位置づけられるべき体系を描く作業として、ドゥルーズのシステム論並びに潜在性の存在論の検討を行った。リュイエに関しては、目下検討中である。 3/現代生物学の議論の整理:以上の議論を現代生物学の議論に位置づけるための基礎的作業として、進化論・分子生物学に関する一定程度の整理を進めたが、それらの議論の寄与分の測定は今後の課題である。
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