本年度は、フランス哲学における生命論的思考の意味を考察する研究に関して、昨年度行われた基礎的部分を引き継いで、概念史的研究と現代における体系的な思考の検討という二つの作業を行い、具体的には次の研究成果を得た。 1.概念史的研究:18世紀の医学者ビシャに関して、特に『生と死に関する生理学的探求』(1801)と『一般的解剖学』(1801)の読解を進め、「生命とは死に抗う諸作用の総体である」という独自の生命論の意義と、「収縮性」と「感覚性」という二つの生命特性の意義とを検討した。また、昨年に引き続いて、19世紀の動物学者ジョフロワ・サン=ティレール(Geoffrey Saint-Hilaire)の思想の検討を進め、キュヴィエとのいわゆる「アカデミー論争」の思想的意味を、18世紀から19世紀におけるラマルク以来の生物学思想を背景に検討した。さらに、17世紀における生命論的思索の雛形と考えられるスピノザにおける生命概念の扱いをも検討した。 2.体系的思考の研究:リュイエ思想の検討を、その生命概念と主観性概念との関係に焦点を絞って検討し、「表面」・「場」の譲論の重要性を確認すると共に、その背景として考えられる(「自己享受」概念を初めとする)ホワイトヘッド思想との関係についても検討を加えた。さらに、昨年度研究を行ったシモンドン思想と合わせて、ドゥルーズ哲学、特に『差異と反復』における摂取の事情を検討した。これらの思索の対照軸と成り得るメルロ=ポンティ哲学における当該概念の検討は、その重要性が改めて確認されたカンギレム・ダゴニエの思索の検討と共に、来年度の裸題としたい。 3.現代生物学の議論の整理:以上の議論を現代生物学の議論に位置づけるための基礎的作業として、進化論・分子生物学に関する一定程度の整理を今年度も進め、また、現在幾つか出現している一般的な生命理論の検討を進めたが、それらの議論の寄与分の測定は今後の課題である。 個別の作業の多くを進めることが出来たので、それらの知見をもとに、統合的な生命理論の構築を目指すことが最終年度の課題となる。
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