本研究の最終年度にあたる本年度は、過去二年間進めた作業を引き継ぎ、これまでの研究の欠を補った上で、研究の暫定的な総括を行うべく、次の作業を進めた。 (1)過去二年間進めたビシャに関する研究、ジョフロワ・サン=ティレールの研究を、それぞれ18世紀から19世紀にかけての生命原理に関する探求、生物の組織化に関する議論と捉えると共に、生命の時間化・歴史化の議論と位置づけた上で、他の同時代的生命思想との関係を解明し、フランス哲学における生命論的思考の概念史的展開に関する一定の統合的な見通しを確立した。特に、ビシャに関しては、その複生命主義の思想がフーコーの思想において占める役割を検討し、その現代的意義を解明した。ジョフロワ・サン=チレールに関しては、その構造主義的な思索が、ドゥルーズのシステム論に占める位置を検討し、その現代的意義を解明した。 (2)カンギレム・ダゴニエらに関する研究を進めると共に、過去二年間研究を進めたシモンドン及びリュイエにの思想がドゥルーズの生の思想に及ぼした意義を、シモンドンに大きな影響を与えたメルロ=ポンティの議論との関係に考慮しながら解明し、現代フランス哲学における生命論的思考の配置図に関する見通しとその意義に関する統合的な見解を確立した。これによって、現代フランス哲学における隠れた水脈としての生命論的思索の特質を、個体化の生成論として概括的に捉えることが出来るようになった。 (3)さらに、以上(1)(2)において得られた研究成果を、現代生物学における一連の議論と関係させ、その現代的な意義を明らかにし、生命論に関する体系的思考を暫定的に提示することを試みた。フーコーらの生-権力論に対するビシャらの思想の有する意義、進化や個体の発生におけるランダムネスを考察する現代生物学の議論に対する一連の現代フランス哲学の生命論的思考の寄与分の測定を行った。これらの成果は、研究成果報告書その他において、発表する予定である。
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