(1)文献調査:研究実施計画に基づき、今年度はとくに渡来僧に関する文献調査を行った。まず夏休みに実施したのは中国を対象としたものであり、具体的に中国の国家図書館(北京)や上海図書館、浙江省図書館、湖北省図書館などの施設において中国の正史における渡来僧の記載の状況や中国側における研究現状を主要な課題として調査研究を行った。次に日本国内に実施した文献調査は主として京都や奈良などの関係図書館や寺院に所蔵されているものを対象としたものである。これらの調査研究により、新しい文献の発見こそなかったが、渡来僧が仏教内部において大きな存在だったと同時に、東アジア全体においても無視できない存在だったことが分かり、それらの事実が次第に明らかになるにつれ、今後、必ずいわゆる「鎌倉新仏教」の再評価につながるものであろうと考える。 (2)研究成果の発表:上記のような文献調査によって明らかになったことや成果を、日本佛教学会や日本宗教学会などの学会や研究会で発表した他、北京にある中国人民大学仏教と宗教学研究所主催の学術講演会で、「渡来僧の精神世界」との題で、講演を行った。日本佛教学会では「拈華微笑」を話題としたものであり、禅における花のシンボリズムを検討してみた。後者の講演では、「渡来僧」現象を従来のように宗学的な問題感心ではなく、「経典的信仰」と「経験的信仰」という従来の宗教学の学説を導入しつつ、中世宗教思想史の大きな思想動向に位置づけて、考察を行ったものである。
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