本年度(平成15年度)は以下の5つの研究作業を行なった。 [1]宇宙飛行士との会話のデジタル文書化: 宇宙環境を実際に体験した日本人宇宙飛行士全員との対話の全記録をデジタル文書化し、空間や時間感覚、価値判断などに関わる芸術的観点からの分析とデータベース化の作業に着手した。直接面談して質疑を行ったのは、毛利衛、向井千秋、土井隆雄、若田光一、野口聡一の各宇宙飛行士である。 [2]NASDA保管の宇宙実験の記録映像の分析と編集作業: NASDAから過去の宇宙実験の記録映像データベースの提供を受け、芸術表現の可能性につながりうる映像の分析作業に着手した。また、その一部を編集して、項目[4]の研究報告会で発表した。 [3]微小重力環境下における身体感覚補助ツールの研究と試作: [1]の研究、とくに向井飛行士との交流の中から、微小重力環境における人間の身体感覚のレファレンス喪失に対応するためのツール開発の必要性という課題を発見し、その解決のための複数個のツールを試作した。試作品は[4]の研究報告会において発表した。 [4]「宇宙への芸術的アプローチ」共同研究報告会への参加と発表、及びシンポジウムの司会進行: 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と京都市立芸術大学が共催する報告会「宇宙のこころ、地球のこころ」に参加し、[3]の試作品「微少重力環境における"ライナスの毛布"」の公開と研究発表を行った。また宇宙飛行士の星出彰彦氏を交えたシンポジウムの司会進行を務めた。 [5]現代美術における宇宙感覚の研究: ランドアート以後の大地と関わるオフミュージアム的な現代美術(例えば越後妻有トリエンナーレにおける諸作品など)における宇宙感覚の発現の様相を調査し、人間的経験の深部で進行しつつある宇宙意識の微細な変容を研究した。
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