6月28日に大阪大学文学部芸術史講座西洋美術史研究室の同窓研究会において、課題研究の中間発表をおこなった。《トリヴルツィオ家の大燭台》の来歴と研究の現況の紹介、同燭台の修復完了を記念して2000年に刊行された書籍Il candelabro trivulzio掲載の写真に基づいた、燭台各部分の図像の検討と、本作品の制作年代とされている1200年前後に属することが確実な他の立体諸作品、絵画と工芸作品との比較検討をとおして浮上してきた諸問題を提起し、それに対する私見を述べた。 7月12日から23日に、ローマ、ミラノ、ロンドンにおける作品の調査と撮影、研究者との意見交換を実現した。特に16日と17日には、ミラノ大聖堂管理局がら特別許可を受け、マルコ・ロッシ氏を初めとする現地研究者と大燭台を囲む柵内に入っての写真撮影、作品観察、検討をおこなった。同氏はミラノ・カトリック大学ブレーシャ分校助教授で、中世およびルネサンス美術を専門とし、本研究の現地協力者である。ロンドンでは、19日と20日に、中世の鋳造作品を所蔵しているヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、レオナルド素描展を開催中のローヤル・ギャラリーにおいて作品調査をおこない、ローマ経由で帰国した。 すでに私が研究対象としていたフィレンツェにある作品と、ヴァティカン、聖ピエトロ大聖堂のフィラレーテの扉といったイタリア・ルネサンス期の青銅鋳造作品、そしてロンドンにおいて調査した作品と大燭台を構成している諸要素の図像、鋳造技法、画面構成、造形性などを比較したが、その結巣、《トリヴルツィオ家の大燭台≫は定説を覆して、14世紀後半以前には遡り得ないと結論付けられる要素が顕著であることを確認した。現場での調査においてその私見は、現地研究者によっても共有された。図像の調査、研究に際しては、立体作品に限らず、近年刊行されている中世写本の縮小版も採用した。
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