■本年度は、被害者が加害者を"ゆるす"気持ちになれる条件について、日本や韓国の文化の中にどのような考え方があるか、比較調査を実施した。別な調査から得られた"ゆるし"の条件は、「謝罪」「深い反省」「なぜそのようなことになったか加害者からの説明」「相手がどれほどひどいことをしたか、自分がどれほどつらいことを経験したかを相手に言うこと(自分の感情の表出)」「再発防止の約束」「時間が経過すること」「罰」「賠償など」「相手が同じ程度のつらい目にあうこと」、その他の条件であった。想定上の被害ケースで、これらの条件がゆるしのために必要な程度の評定を求めると、日本人大学生では、ゆるしの条件の判断には、被害の重大さに応じた「結果主義」の傾向があった。韓国人大学生は、個々のケースに応じた条件判断を行なっており、「情状主義」の傾向があることがうかがわれた。また、日本人大学生の心情は、重大な加害では、韓国人大学生に比べて厳罰主義的であることが示唆された。日本において、現実の被害者と一般的な考え方とにもしズレがあるとすれば、被害者の癒しとゆるしについてのポリシーを決定する際に、両者をどう調整するかが問題になるだろう。また、謝罪、反省、再発防止の約束、被害側の心情の陳述は、形式的な条件として必要かどうかだけでなく、実際にそれがどのような内容であるかが、重要だと考えられる。 さらに、文化を超えて共通した性差があることも明らかになった。すなわち、女性は、ゆるしの条件として、加害者側がどれだけひどいことをしたか、被害側である自分がどれだけ苦痛を経験したかを述べる、心情の表出を男性に比べて重視する傾向があった。 ■なお、中国における"ゆるし"の比較については、宮城教育大学への留学生谷氏の協力のもとに翻訳版を完成させた。
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