研究概要 |
平成14年度は,幼児が英語を第二言語として学習する過程を探索的に解明するため,実験的観察法を用いて縦断研究を行った。被験児は幼稚園年長児(女児)1名であり,日本語と英語の流暢バイリンガルである大学生(女性)が主に英語教授を担当した。被験児は防音効果のある観察室で,毎週(約1時間から2時間)「遊び」を通して英語の単語や文を学習し,さらに自宅で,CDやテープを聴いて同一材料を学習した。観察期間は12週間であった。ここでは,「単語の習得」と「文の習得」に焦点をあて,結果と考察の概要を述べる。 <単語の習得>旧常生活における具象語(名詞,動詞)を取り上げた。絵本(絵の一部は写真)ならびに英語母語話者の発音によるCDを用いて毎回復唱させ,最終的に絵を見て,あるいはイメージを想起させて,英語単語が産出できるかどうかを調べた。カタカナ語(借用語)の元になっている英語単語は,二言語の音韻体系が異なるにもかかわらず,総じて初期段階から正確な発音での産出が容易であった。カタカナ語の音韻表象が,英語単語の音韻検索において手がかりとして機能することが推測される。カタカナ語を通じて,すでに心内に意味表象が形成されていることも関わるであろう。キーワード法の応用が有効であることも示唆された。 <文の習得>短い平叙文,疑問文を取り上げた。英語教授担当の女性が絵や写真,実物を用いて,あるいは活動(描画,工作,ゲーム)を一緒にしながら発音し,それを復唱させ,最終的に場面や状況を設定したとき,どの程度英語で表現できるかを調べた。意味の異なる2つの文が同一疑問詞で始まる場合に,一方を産出すべき課題で他方を産出する現象がみられた。数語からなる文を1ユニットとして符号化・検索している可能性がある。学習が進むにつれて,単なる模倣ではなく,「意味」に基づく規則を使って文を産出することも示唆された。
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