幼児は、多層的な感情経験をどのように理解しているのか(あるいはどのように理解していないのか)について、検討した。4歳、5歳、6歳の幼児を対象として、面接調査を行い、多層な感情の理解の発達的変化について、横断的調査により年齢による違いを明らかにすることを目指した。 具体的には、1対1の面接をし、次のような質問をした。多層的な感情についての理解を測定する質問;まず、次のような例話を提示する:サッチャンはお母さんと友だちと3人で遊園地に行くことになっていたが、友だちは熱が出て行けなくなり、サッチャンはおかあさんと2人で遊園地へ行った。そして、「サッチャンは、どんな気持ちかな」と尋ねた。子どもが肯定的な感情あるいは否定的な感情のどちらか一方の感情のみを答えた場合には次のような促し質問をする:「ほかにはどんな気持ちがしたかな」。子どもがなおも肯定的な感情あるいは否定的な感情のどちらか一方だけしか言及しない場合には、次のような促し質問をする:「サッチャンは、悲しい気持ち(子どもが言及した感情)もしたけれど、ちょっとうれしい気持ち(子どもが言及しなかった方の感情)もしたんだって。それは、どうしてかな」。次に、多層な感情の言い表し方の例示を行った。さらに、別の例話を提示して、同様の質問を行った。 その結果、4歳児では促し質問を提供しても、肯定的な感情あるいは否定的な感情のどちらか一方のみを答えることが多かった。5歳児では、両方の気持ちがしたということを提示してそれぞれの理由の説明を求めると、肯定的な感情と否定的な感情それぞれの理由を説明する子どもの割合が増加した。6歳児では、ほとんどの子どもが肯定的な感情と否定的な感情それぞれの理由を説明することができた。また、多層な感情の言い表し方の例示を受けた後、即ち2例話目においては、多層な感情を促し質問なしに自ら答えることが、少数ではあるが見られた。 以上から、5歳以降において徐々に大人からの援助を受けながら、多層な感情の理解が進んでいくことが示唆された。
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