幼児は、多層的な感情経験をどのように理解しているのかについて、検討した。14年度に、4歳、5歳、6歳の幼児を対象として、横断的調査により年齢による違いを検討したが、15年度は、4歳と5歳の幼児の1年後を追い、縦断的に検討した。具体的には、1対1の面接をし、次のような質問をした。多層的な感情についての理解を測定する質問;まず、次のような例話を提示する:サッチャンは、親と友達と3人で遊園地に行くことになっていたが、友達は急病で行けなくなり、親と2人で遊園地へ行った。そして、サッチャンの気持ちを尋ねた。子どもが肯定的な感情あるいは否定的な感情のどちらか一方の感情のみを答えた場合には次のような促し質問をする:「ほかにはどんな気持ちがしたかな」。子どもがなおも肯定的な感情あるいは否定的な感情のどちらか一方だけしか言及しない場合には、次のような促し質問をする:「サッチャンは、悲しい気持ち(子どもが言及した感情)もしたけれど、ちょっとうれしい気持ち(子どもが言及しなかった方の感情)もしたんだって。それは、どうしてかな」。次に、多層な感情の言い表し方の例示を行った。さらに、別の例話を提示して、同様の質問を行った。 その結果、1年前の4歳時点では促し質問を提供しても、肯定的な感情あるいは否定的な感情のどちらか1方のみを答えることが多かったが、1年後の5歳時点では、両方の気持ちがしたということを提示してそれぞれの理由の説明を求めると、肯定的な感情と否定的な感情それぞれの理由を説明することが増加した。また、5歳児の1年後の6歳時点では、多層な感情の言い表し方の例示を受けた後においては、多層な感情を促し質問なしに自ら答えることが、少数ではあるが見出された。以上から、14年度の横断的調査により見出された年齢差が、15年度の縦断的調査において確認されたと言えよう。
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