平成14年度は、申請時の研究計画に記載したとおりに文献調査を行った。文献としては、まず逆因果律を扱っている哲学分野の出版物を対象とした。具体的には、Michael Dummetなどの著作をレビューした。文献調査の結果、哲学分野での議論は概念的には逆因果律に対応してはいるが、抽象的な合理性の議論に焦点があてられており、哲学的議論自体を直接社会学的な実証研究に結びつけるのは難しいと判断された。ただ、これらの文献の中で想定されている事例については、実証研究の対象とすることが可能であると思われる。現在では自然科学が一般生活に浸透しているため、通常の因果律、すなわち順因果律以外の因果の方向性は常識的に考えることができなくなっている。従って、逆因果律が人々の意識において実際に意味を持つのは、宗教的行為、儀礼的行為、民間伝承、説話、迷信、童話などの領域に限定されると考えられる。文献調査は平成15年度も継続して行うが、これらの分野に焦点をあてて実施する予定である。すでに発表したマックス・ウェーバーのプロテスタンティズムの倫理とカルヴィニズムの予定説の逆因果律による解釈は、宗教的行為の領域の事例としてとらえることができる。また、申請当初予定していたコンピュータによるシミュレーションの妥当性についても、今年度の文献調査の結果から見る限り、かなり慎重に判断する必要性がある。また、文献調査の対象としては、インターネット上のウェブページも含めて検索を行った。このような検索のためにはインターネットに接続されたパーソナル・コンピュータが必要であるので、部品類を購入し適切な機能と性能を持つパーソナル・コンピュータを作成した。また、収集された資料、および、執筆した文書などをコンピュータ・ウイルスや不正アクセスから保護するために、適切なウイルス用ソフトウエアを導入し、入念なバックアップ体制を確立した。
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