平成15年度は、申請時の研究計画に記載したとおりに平成14年度の文献調査の結果をふまえて、現代社会における一見非合理的な行為の中から、逆因果律の概念を応用できるものを選択し分析した。その結果、宗教、信仰、呪術、迷信、伝承、童話、寓話などに加えて、精神分析学における無意識の機能・作用が逆因果律の応用分野としては適切であると判断された。また、通常哲学においては因果律を機械論的因果律と目的論的因果律に分類するが、この分類と順因果律、逆因果律という分類との関係を明確にする必要が生じた。基本的には機械論的因果律、目的論的因果律という分類はあくまで順因果律の範疇での分類である。逆因果律においてはその結果が目的としての特徴を持つので、必然的に目的論的な性格を有する。このために、順因果律の中の目的論的因果律と、逆因果律とが混同されることがあるので注意を要する。たとえば、唯物史観は目的論的因果律であるが、明らかに順因果律であって逆因果律ではない。これらの点について平成15年5月10日開催の第61回西日本社会学会大会と、平成15年10月13日開催の第76回日本社会学会大会(一般研究報告、理論部会4)において発表を行った。また、ニューコーム問題のようなパラドックス的設定をコンピュータを用いてシミュレーションすることを検討したが、この点は平成14年度の実績報告書にも記載したように、順因果律の概念があまりにも当然の真理として人々の意識に根づいているために、シミュレーションの状況では手品やマジックショーの場合と同様に、何らかのトリックが潜んでいることが常に疑われてしまい、逆因果律にもとづく行為をとらせることは困難であるという判断に至った。このために、シミュレーションに依存するよりも、むしろ文献資料にもとづいて、プロテスタンティズムの倫理のように実際に人々がとった行為を分析する方法が有益であると判断できる。
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