平成16年度は、平成14年度の文献調査と平成15年度の検討結果をふまえて、現代社会において一見非合理的に見える行為や現象として、具体的に迷信・伝承・説話などといったものと、精神分析における無意識の機能をとりあげて分析した。この結果、本質的な問題点は、行為者が自分の認識した論理関係からどのような因果関係を想定するかに集約されることが分かった。言うまでもなく、論理関係と因果関係は別の概念である。論理命題PとQに関して、一方が他方の必要十分条件であれば、論理的にはこれら2つの命題の関係は対称である。しかしながら、因果関係においては、原因Pと結果Qとは対称ではない。これは自明のように思われるが、因果関係の説明においては、哲学書においても論理関係としての必要条件、十分条件といった用語が用いられており、実際には因果関係と論理関係とが明確に区別されていないことを示している。たとえば、A.J.AyerのThe Problem of Knowledgeにおいて、カルヴィニズムの予定説の教義に関する説明があるが、ここでも本来は論理関係の概念である必要条件、十分条件が用いられている。論理関係と因果関係とを明確に理解するためには、二者間の関係をメタレベルの関係として定義しなくてはならない。このメタレベルの関係のフォーマライゼーションとして、カテゴリー論を用いることができる。まず、論理命題全体からなる類と、論理関係を射(モルフィズム)として構成される論理カテゴリーを考える。次に、現象全体からなる類と、因果関係を射として構成される因果カテゴリーを考える。この時、ある論理関係をどのような因果関係に対応させるかは、論理カテゴリーから因果カテゴリーへの共変関手として定義できる。従って、行為者が論理関係から、順因果律を想定するか逆因果律を想定するかは、行為者の意識の中でどのような共変関手が選択されているかに依存して決まると言うことができる。
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