要約筆記通訳は、要約筆記者が話を聞いてその内容を文字で書くことにより、聴覚障害者が話の内容を理解できるようにするものである。話す速さと書く速さには大きな違いがあるため、話す速さに遅れずに、しかも内容を正確に伝えるためには、話の内容をいかに的確に要約して書くかがカギになる。実際の要約筆記場面では、話しことばを聞きながらその場で要約して文字化するという複雑な作業が要求され、その過程にはさまざまな技術が含まれていると考えられる。そこで、元の話しことばと筆記された文章を比較することにより、どのような要約技術が用いられているかを検討した。 【方法】要約筆記者が要約筆記を行なっている場面をビデオテープに録画した。そのテープをもとに1秒単位で書きおこし記録を作成し、元の話しことばと筆記された文章を比較した。 【結果】筆記された文章は、表記法の工夫(e.g. 障害→「シ」を丸で囲む[標準略号として定められている]、高齢化→高レイ化)、不要部分の削除(言い直しや無意味な音声)、要旨の把握に影響が小さいと考えられる部分(意味的に重複する部分、補足的な部分、挿入句、接続詞、副詞など)の省略、言い換え(語〜文単位)によって元の話しことばと比べて短縮されていた。また、各文の書き出しのタイミングを見ることで、要約文がどの時点で構想されているかを推測することができた。 【考察】要約筆記では話を聞きながらリアルタイムで要約作業を行なっていくため、通常の文章要約とは異なる過程で要約文が作られていると考えられる。要約技術を分析するにあたっては、元の発話と筆記された要約文の違いだけでなく、発話と筆記の時間差などの時間的要素についても検討する必要が示唆された。このような方法で熟練した要約筆記者の要約過程を詳細に分析し、要約技術に関わる要因を明らかにすることで、要約筆記者養成に役立つ情報が得られると考えられる。
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