要約筆記通訳は、要約筆記者が話を聞いてその内容を文字で書くことにより、聴覚障害者が話の内容を理解できるようにするものである。話す速さと書く速さには大きな違いがあるため、話す速さに遅れずに、しかも内容を正確に伝えるためには、話の内容をいかに的確に要約して書くかが重要である。実際の要約筆記場面では、話しことばを聞きながらその場で要約して文字化するという複雑な作業が要求され、その過程にはさまざまな技術が含まれていると考えられる。そこで、元の話しことばと筆記された文章を比較することにより、どのような要約技術が用いられているかを検討した。 今年度は、昨年度に引き続き、実際に要約筆記を行なっている場面をビデオテープに録画する方法でデータを収集し、元の話しことばと筆記された文章を比較した。筆記された文章は、略号やかな書きの使用などの表記法の工夫、不要部分の削除、要旨の把握に影響が小さいと考えられる部分の省略、言い換えによって元の話しことばと比べて短縮されていた。また、発話と筆記の時間差を検討することで、どのような情報が得られた時点で要約文が構想されているかを推測することができた。 また、次年度は複数の要約筆記者が同一の素材(講演のビデオ記録など)をもとに要約筆記を行なったデータを実験的に収集し、そのデータをもとに、要約筆記者の個人差(初心者と熟練者の差など)を含めた検討を行なう計画だが、今年度はそのための素材の選定を行なった。
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