研究概要 |
研究の初年度の14年度は理論研究に軸足をおきつつ、調査実証研究も行った。まず、理論研究としては、ソーシャル・キャピタル(関係資本)概念の範囲と内実を検討するべく、文献の検索と収集に努めた。欧米そして東アジアでは、人的資本(ヒューマン・キャピタル)、文化資本(カルチュラル・キャピタル)と識別されながら、この概念の有効性や3概念の相互関係が問われていることがわかった。教育学研究においては、ブルース・フラー(Bruce Fuller)たちは、アメリカ合衆国の移民やエスニック家族を対象にして、ソーシャル・キヤピタルと学業達成の関係を調査研究している(Schooling and Social Capital in Diverse Cultures,2002)。また、都市教育(改革)をめぐっては、マリオン・オーア(Marion Orr)がソーシャル・キャピタルに焦点を当てた実証研究(Black Social Capital,1999)をし、他方で、ジョージ・ファーカス(George Farkas)が人的資本と文化資本に焦点をあてている(Human Capital or Cultural Capital?,1996)。この両研究の差異や重なりは、3つの資本概念を考える上で、興味深いテーマとなる。 次に、調査・実証研究では、日米でホット・イシューとなっている対象を取り上げて、ソーシャル・キャピタルなどを問う論文を公表した。1つは、日本の教育特区を分析した「教育起業とローカル・ルール」『季刊教育法』135号である。「社会的な信頼」に基づき、地方の自発的なローカル・ルールを創造する教育の社会実験こそが求められていると論じた。もう1つは、アメリカのチャータースクールを事例研究した「個人商店型チャータースクールと教師の協同組合」『教育学会誌』30号である。教育の自発的アソシエーションであるチャータースクールの実質をより充実するために、教師の協同組合という形態を選択したあるハイスクールを分析した論文である。自発的に協同組合として結社した関係資本が、熟議(deliberation)や信頼を内実とするアソシエーティブ・デモクラシーをいかに制度化したかを明らかにした。
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