本研究は、奈良県吉野郡川上村に所在する丹生川上神社上社の発掘調査を契機とするものである。 この調査によって当社には、当初社殿などの建造物が存在しなかったことが明らかとなった。この事実は、現在考古学界で論争となっている、神社遺構や「弥生神殿」遺構に対する諸説に再考を促す契機になるものと考える。 昨年度は、それらの論点を整理するとともに、神社遺構や「弥生神殿」遺構とされる過去の調査について、再検討を加えることを目的とする研究方針をたてた。具体的には、過去に調査された遺構が、神社または神殿と判断できる必要十分条件とは何なのか。それを明らかにする方法として、現存する神社で、記録上創立年代が古代から中世初頭まで遡るもので、なおかつ、現在に至るまで社地が大きく移動していない可能性が高いものを選び、実地見聞することにした。勿論、存続期間が長年月に渉る神社は、多かれ少なかれ後世の改変を受けているわけであるが、重要なことは、それらが存在する立地および地形に対する社殿の配置や、集落・交通路、または、それ以外の社会的もしくは精神的関係であると考えられるからである。 本年度は、昨年度に引き続き、そのような視点に基づいて、近畿圏内・東海道・東山道・北陸道に鎮座する延喜式内社を中心として、実地踏査を実施した。また、平成15年10月26日に滋賀県立大学で開催された日本考古学協会2003年度大会の「弥生集落における大型建物・方形区画の出現と展開」と題する研究発表会に参加し、発表者などと意見交換を行なった。また、平成16年1月24日に奈良県立橿原考古学研究所講堂で開催された第2回友史会臨時講座において「神社および神殿遺構に関する諸問題」と題する講演を行なった。
|