本年度は、主に西日本を中心とする延喜式内社の立地等の検討を行なうとともに、過去に調査された神社関連遺構について、調査担当者等と意見交換を行なった。 北部九州に於いては、太宰府天満宮・竈神社・宝満山の関係が興味深い。竈門神社は、宝満山山頂に露出する花崗岩の巨岩上に鎮座する。付近は、宝満山祭祀遺跡として夙に知られているが、巨岩祭祀と山体遙拝、社殿の建立という一連の行為が8世紀代から9世紀前半代に行なわれたようであり、本研究の端緒となった丹生川上神社上社関連遺構の調査成果と比較することが可能であろう。 平成15年度に、福岡市教育委員会が調査した金武遺跡において2間×3間の掘っ立て柱建物が検出されたが、その構造は神社関連遺構と考えられるものであった。遺構は、9世紀代の所産と考えられ、古代の神社遺構を検討する上で重要である(現在報告書作成中の未発表資料)。同様の遺構として、島根県出雲市青木遺跡がある。IV区SB03は2間×2間の総柱掘っ立て柱建物で、大社造りを想定することが可能である。時期は、8世紀後半から9世紀前半。両者は、長方形に区画された空間内の偏った位置に建てられている点で共通する。祭場としての広場の空間を確保するためであろうか。これらの遺構を、手がかりとして、過去に調査された遺跡・遺構の中で共通項を見出すことによって、神社または神社関連遺構を峻別できるのではないかという感触を得た。 なお、出雲大社境内遺跡の調査成果から、限られたエリアの中で、時期毎に神社関連遺構が移動する場合があることも確認した。 本研究の単著となった丹生川上神社上社関連遺構の調査成果と課題を、『季刊 考古学』第87号に掲載した。
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