19世紀中葉の南北戦争に敗退し、所謂「再建」期間において、勝者北部流の民主主義観を強制されたアメリカ南部と、これとほぼ同時期にあたる江戸幕府瓦解という事態に引き続き、欧米列強国によってすでに選択されていた「世界基準」を、例えば不平等条約締結という形で受け入れざるを得なかった近代明治日本-この文化の「転轍」という視点を、アメリカ南部と近代日本の文学を中心とする具体的な諸文化表象の特徴解析の一視点として応用し、その後の両文化圏の文化的発展を歴史記述する際に常に立ち帰られるべき原点として措定した。 その上で本研究は、<文化転轍>という観点から、アメリカ南部と日本近代おのおのの具体的な文化表象において、内発的・保守的世界観と外発的・革新的世界観のあいだの反発、融合、浸潤という現象を前景化し、そこから両者それぞれの文化史の再記述を行なって、それぞれの文化に関する先行研究を再検討しつつ、両研究分野における成果を統合することを試み、同時に比較考証を通じて両文化圏のあいだの歴史的差異を再確認することを目的とした。 上記の研究成果をアメリカ南部文学からはW・A・パーシー、L・スミス、W・フォークナー、A・テイト、M・トウェイン、B・A・メイソンなどを取り上げ、日本文学からは夏目漱石、中上健二、江藤淳および加藤典洋を取り上げて、それぞれの文学(批評を含む)を<文化転轍>をキーワードとしつつ比較検討を試みた。その部分的成果は次頁に挙げた論文や、そのほか単行本に所収予定の論文に示されるが、<文化転轍>という主題が両文化表象解析に当たって一定の実効性をもっていることを確信し、加えてこれを日本の「(敗)戦後文学」へ拡大する可能性も充分に開けたように思う。 今後は特にアメリカ南部における文学以外の文化表象の具体例収集を積極的に行い、アメリカ南部文化の包括的歴史記述を目指して、これを15年度夏以降に予定している1ヵ年にわたるノースカロライナ大学における海外研修において果たしたい。
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