通訳を言語教育の最高の到達地点に位置づけた上で、「よい通訳とはどのような通訳か」の評価基準の理論的基礎づけを試みると同時に、通訳養成の立場から、これまで欠落してきた「職業教育としての語学教育」という観点を回復する道筋を考えることを目的とし、本年度も、文献収集と通訳シミュレーションによるデータ収集を行った。東京大学DESKの支援と現役日独通訳者たちの協力も受けながら開いている通訳シミュレーションのための集中セミナー(つくば市、産業総合研究所)は、昨年に引き続き、8月と1月の2回開催した。さらに毎月一回の例会(東京大学駒場キャンパス)を開催した。そうした機会の中で通訳者の実践練習を通して、ドイツ語通訳教育に必要な実証的データを収集した。さらに、日独の(とくに母音の)発声の相違が思いがけず大きなコミュニケーション上の問題になっているとの分析から、特にこの点に関するレクチャーも受けた。そこで集められた問題点や解決策の分析を通して、通常の翻訳とはことなる通訳独自のテクスト能力の記述を今後行ってゆくこととなる。通訳者が陥りがちなミスやトラブルについては、その個別ケースごとの解決策を分析し、多くの人に利用できる形で提供してゆけるよう準備する。今年度は3年間の計画の2年目であったためもっぱらデータ収集につとめたが、今後はこれらの実証データをもとに、さらに分析を進め、また日独通訳養成の目的に即した教材や音声資料の作成・評価をも行ってゆくこととなる。
|