社会問題に敏感なドイツの戦後作家たちが「原爆投下」という主題と「ラジオドラマ」という文学ジャンルにおいて、いかに取り組んだかを探ることが、私の研究目的である。したがって、まずは「原爆投下」という共通テーマを持つ作品の調査を行う必要があったので、夏休みを利用してドイツへ出張した。ミュンヒェンのバイエルン放送、バーデン・バーデンにある南西放送のアルヒーフや図書館の協力を得て、大変充実した調査を行うことができた。とりわけ、ヴォルフガング・バイラオホ(Wolf gang Weyrauch)の『日本の漁師(Die japanischen Fischer)』(1955年5月24日、BRより初放送)、アーヴィン・ヴィッケルト(Erwin Wickert)のフィーチャー『ヒロシマのその日(Der Tag von Hiroshima)』(1955年8月5日、SDRより初放送)の録音資料は一番の収穫であった。また、ハンブルクの北西ドイツ放送が1948年にラジオドラマの脚本公募を行った際に第一位を獲得して制作放送された、オスカー・ヴェセル(Oskar Wessel)の『ヒロシマ(Hiroshima)』がシュテュットガルトの南ドイツ放送でも制作されていたことは、新しい発見であった。二作品に関してさらに調査し、演出の比較をする価値があろう。 ドイツの放送局で収集したこれらの研究資料を基にして、個々の作品を分析する作業を進めている。その際、音声作品の性格を鑑みて、主題分析のみならず、構造分析や音響効果の分析など、多岐にわたる方法を駆使している。同時にまた、上記作品の作家のラジオドラマ理論なども検討している。
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