本年度は計画の初年度であり、中世西洋における書庫の歴史と個々の学識法著作の成立事情に関して、前提的な調査を行って研究状況の把握に努めた。その上で、ドイツ・ギーセン大学にて、本研究計画の主要史料である「ドイツ・スイス中世書庫カタログ」と「オーストリア書庫カタログ」の調査を遂行し、必要箇所の複写などで材料を収集した。 これらの材料の分析と評価には、他の史料群とのつきあわせなどで、なお時間を必要とする。今の時点でとらえられたいくつかの所見をあげれば、まず史料の残存状況から教会・修道院の書庫についての情報が中心になることもあって、学識法文献の中では教会法関係のそれが多く検出されたが、ローマ法関係のそれも欠けているわけではなく、両法の不可分な関係が確認された。書庫の分類としては教会法・ローマ法それぞれ独立した単位とされていることがしばしばであるが、教会法文献と懺悔や魂の救済を扱った教化文献との区分は交錯している場合があり、法学と神学にまたがる教会法(学)の性格をうかがわせる。またいくつかの修道院では、修道院の改革の時期に、新たに法学文献(特に教会法)の入手を図っている事例が見られ、中世後期の修道院改革運動と学識法学の関係という問題領域が浮上してきた。世俗分野では、中世後期に、ニュルンベルクなど有力な都市の参事会が、市内の修道院などが持つ学識法文献をも参照しながら活動している様子がうかがわれた。 なお、ドイツ滞在中に開催されたドイツ法制史学者大会では、中世学識法写本の分布に関する研究報告などを聞くことができ、本計画にとって有意義であった。
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