本年度は、バイオテクノロジーやゲノム医薬開発におけるリード化合物を念頭に、動的な競争という観点から日本の医薬品産業の研究開発の状況を調べた。そして、競争政策の観点からみて、動的な競争観は、危険な面があるけれども、研究開発競争に対する独禁法の評価が重要になってくるとき、それを、独禁法の側から積極的に位置づけ、適切な接点を構築することが必要であった。動的な競争に対しては、従来そうしていたように、それを違法性判断のルールの内部に取り込まずに、外的の考慮要因として扱うことが適切であった。そして、独禁法の違法性判断の量的な基準(例えば、市場シェアや順位など)を緩和し、あるいは質的な基準(市場シェア以外の考慮要因)を多様化・柔軟化することで、動的な競争に間接的に対応することができた。緩和や柔軟化の程度が行き過ぎると、独占容認の傾向を助長させる懸念はあるが、研究開発競争が活発な産業では、このような懸念よりも、あまりに予防的な介入基準を設定する逆の危険を考慮しなければならないだろう。検討の結果を、合併・買収の規制と不公正な取引方法の規制に関して、3点にまとめた。 第1に、合併・買収規制についは、現行の合併ガイドラインで、動的な競争に十分対応可能であることが確認された。第2に、不公正な取引方法の規制では、流通取引慣行ガイドラインの構造基準(有力な事業者基準)厳しすぎることが指摘された。以上のことが確認され、必要な改善が行われれば、現在の独禁法は、動的な競争との適切なインターフェイスを構築することができるとした。
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