本研究は、EUの政策決定過程における欧州委員会と閣僚理事会の主導権に対して、民主的代表である欧州議会や加盟国議会が、EUの「民主主義の赤字」を克服するためにどのような役割を担うべきかの検討を目的として実施された。具体的には、政府間主義を採用してきたイギリス議会に焦点を当て、閣僚理事会の決定権限の変化や、欧州議会の強化に連動する形で、その統制・監視制度を改革してきたことを跡付け、その連関を明らかにした。これまでイギリス議会(下院)は、単一欧州議定書やマーストリヒト条約による急速なEU立法の増加、EUの政策決定機構の改革に対応するため、精査のための時間の確保と情報の入手を図るための制度的保障、閣僚理事会における自国政府代表に影響力を行使するための議会留保権限の明確化などによって、その監視システムを強化してきた。さらに、最近では、下院近代化委員会の答申を受けて、欧州問題精査委員会を設置するなどの制度改革を実施してきた。そうした中で、EUは拡大後の民主化を目的の一つとして、欧州の将来像諮問会議を設置し、欧州憲法条約の草案を提出するに至った。同草案では、加盟国議会に、EUが補完性原則に反していないかどうかを監視する実効的権限を公式に付与することとしている。また、閣僚理事会の公開性を高めることによって、加盟国議会が自国政府代表の発言、投票行動をチェックすることも可能となる。EUにおける加盟国議会の強化案と連動して、イギリス議会(精査委員会)は、今後、補完性原則に関する監視や、自国政府に対するチェックを徹底することで、間接民主主義を通じた民主化に一層の責任を負うこととなったといえるだろう。
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