15年度の研究実績を実証的および制度・理論的側面から説明する。まず実証的側面からの研究実績は次のようになる。一般病院のうち私的病院が集中する老人病院と療養型病床の病院、および精神病院を中心に、開設者別医療機関の収支状況を時系列的に分析した結果、私的病院の集中する経営的成果が他の開設者に比べてとくに優位な状況となった。かつ、これらの私的病院では入院収入が高く、費用面では人件費用が低いなどの特徴があった。このような特徴や、14年度研究で明らかにされた市場構造的特徴などの観察結果は、自由開業医制を考えると、全ての医療機関が非営利機関に属するものの、開設者というproperty rightの差異によって医療機関の行動上における相違を示唆する。 次に、開設者別医療機関の市場構造的な相違性に関する経済的根拠を求めるために、開設者別医療機関の制度的および理論的研究を行っている。研究成果によれば、私的医療機関と他の開設者医療機関における経済的誘因の差異を生じさせる制度的制約があった。それは、非営利性制約を弱める(私的病院の)社団医療法人という形態の存在、および診療報酬体系の歪みと非排他的な利得を生む診療報酬規制である。この条件に加えて、市場存続を左右する医療機関の採算性が強く求められているのは私的医療機関である。このため、非営利性医療機関であっても、その開設者によって医療機関の行動が相違する理論的根拠は存在する。この知見がわが国の医療制度を踏まえて得られた。以上の実証的および制度・理論的側面の研究成果を踏まえて、わが国における開設者別医療機関の行動モデルを一層、検討することが求められる。
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