今年度は2年の研究計画の1年目に当たり、分析用貨幣サンプルの確保、分析手法の研究および予備的分析を行った。具体的には以下の通りである。 1.科研費により、分析用サンプルとして「世界最古の鋳造貨幣」として知られるリディア王国のエレクトラム貨をはじめ、その直後の時代の銀貨3点・金貨1点、ならびにそれにつづくアケメネス期のシグロス銀貨10点を確保した。 2.文献研究によれば、現状でもっとも精密な結果を得られる非破壊分析手法は「ガンマ線分析」である。和歌山の砒素カレー事件で複数の砒素サンプルを分析比較し「同一物である」との結論を出した方法だという。また、破壊を伴うものの、標識をチェックする上で注目すべき方法として「鉛同位体分析」がある。しかしこれらの分析手法はきわめて大がかりで、多数の不明サンプルを試行錯誤的に分析するには向いていない。これに対し、簡易的に行えて十分精度の高い手法としては「蛍光X線分析」がある。不特定多数のサンプルを試行分析するには、現時点ではこの方法から入るのが妥当である。 3.東京大学理学系研究科附属スペクトル化学研究センターの厚意により、上記のサンプルについて「蛍光X線分析」をおこない、当分析手法の特性を研究するとともに、予備的な結果を得た。今回の分析は、この分析手法で相互比較に足る標識元素を検出しうるかどうかをチェックする予備的研究である。まずは簡易的にまとまった結果を得るため、大気中にての分析を行い、重金属を中心とした定量分析結果を得た。しかし、この方法では大気の影響を受ける軽元素の存在は確認しえない。今後は真空状態での軽元素の検出も必要と考えられる。 4.比較の可能性については次年度の課題となる。
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