本研究は、エージェンシー問題、ガバナンス問題が存在する下での動学的な資産価格形成理論の再構築をそのテーマとした。特に、不動産価格を法律によって規定された不動産の所有者や使用者が持つ権利の価格付けという視点から捉え直すことを主たる目的として行なわれた。研究では、(1)オプション理論の応用により不動産賃貸など1つの不動産に複数の主体が関わるゲーム論的な状況での価格形成について数理的モデルの構築を行った。構築されたモデルに基づき、不動産賃貸契約において発生する貸し手と借り手のコンフリクトとその法的な裁定の不動産価格への影響を貸し手・借り手の権利の価値を求めることによって極めて簡単な形で計算できる手法が作り出された。そこで得られた価格決定式は、単純な現在価値モデルから得られる価格の動学性質とはきわめて異なったものになったことも注目される(ファンダメンタルズの変化に対する過剰反応、過少反応など)、(2)新しい不動産価格形成理論のベースとなる手法を更に発展させるための企業金融論におけるCCAとガバナンス理論を融合する研究のプロセスも同時に進められた。そこでは、不動産法制と不動産価格の関係を伝統的な最適資本構成理論を再解釈することにより、それと論理的に同値な方法で分析可能な手法が開発できる事実を見出された。これは、ゲーム論的な要素を明示化したオプション理論が極めて広い応用範囲をもっていることを示唆するものとなっており、本研究の同分野の今後の貢献を強く示すものとなっている。
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