平成16年度は、京都大学の原田氏とトーエンの理論の分析を中心に研究してきた。その中ではドワイヤー・カンの単体的ホモトピー論の手法が効果的に用いられており、そのため前半ではそれらの理論の研究にかなりの時間を要した。これは本研究のクリスタリン非可換ホッジ理論に不可欠であるクリスタリン非可換コホモロジーの理論の構築に向けて重要な手法を提供するものと思われる。実質的な意味でどこにどのようにその理論を用いるかがわかったという意味で前半のこの研究成果は実りのあるものであった。後半の研究では高次元トポスと数理論理学の関係の研究にもかなりの時間を割いた。これは本研究と一見したところ無関係のように見えるが、そうではなく実はこのような関係があるから、高次元カテゴリーや高次元トポスを導入するのが有効だということが見えてきた。これは数理論理学の分野でのモデル理論をカテゴリー論的に展開するカテゴリー的モデル理論の研究と密接な関係があり、モデル理論の手法を高次元トポスに応用したある種のコンパクト性定理を導くことが、高次元トポスを利用したモジュライの理論の研究に役に立つという可能性が見えてきた。これはまだ発表できる段階のものではないが、さらに研究を進めることが全体の理論の中で重要な意味を持つと思われる。正標数の代数幾何での有界性の問題などは高次元クリスタリントポスのこのような理解の上で自然に解かれる問題となるのではないかという予想が得られた。
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