研究概要 |
重力版ヒッチン・小林予想の背景は安定な簡約代数群の作用の運動量写像の変分法的性質だ.これをChow点に適用したのがCM-安定性の概念だ.これを変分法化するにはChow点が住むベクトル空間の計量の選択が本質的だ.ZhangはRiemann-Rochの定理の算術化に使われるDeligne対を使い,Donaldsonは無限次元のゲージ変換群の運動量写像から自然な計量を導入した.一方,Phongらは射影埋め込み全体の族にDeligne対を導入することによってZhangとDonaldsonの計量化は同値であることを示した.以後この計量をChow計量とよぶ.Chow計量がゲージ理論と算術Riemann-Rochの両面から特徴付けられるという事実はChow計量の本質性を意味する.DonaldsonはChow点の軌道がChow計量で測って最も原点に近づく点に注目して,c_1(L)が定スカラー曲率Kaehler計量を含めば(X, L)は漸近的CM-安定であることを証明した.本研究ではChow軌道が原点に最も近付く点で見るかわりに,Chow点の軌道がどんな有界集合をも超えて無限に伸びていることの帰結を考察した.Lが反標準束のときにこれをXの幾何学の言葉で旨い換えるとChow軌道に沿って無限遠方に行くという退化に伴いRicci曲率の集中が起きるがCM-安定性のもとでは或る積分不等式をこえた強さで集中し得ない,となる.そこで本研究ではFano多様体上のKahler形式のなす空間上に,Ricci曲率が集中したKaehler計量を初期条件としてPrescribed Ricci方程式を解く作業をiterateして定まる力学系を導入して,その漸近的挙動を調べるというアプローチを開始した.この力学系はKahler多様体上のRicci流を離散化したものである.Ricci流では必ずしも保存されないRicci曲率のpositivityが保存される点と,Prescribed Ricci方程式が標準的なMonge-Ampere方程式になる点,Ricci流の離散化が射影代数多様体上の一般の偏極に対しても定式化できる点が,Kahler多様体上でこの離散化を考える利点である.
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