萌芽研究の2年目(最終年度)ということで、当初の目的であるレヴィ過程の径数空間が多次元の錐である場合の特徴的なことの解明に努力したが、問題のむづかしさのために、必ずしも満足いく結果までには到達しなかった。しかしそれでも、今後挑戦されるべき問題のいくつかを整理できたことは収穫であった。 現在確率過程論、特にレヴィ過程論の中で重要な問題と考えられているのは、時間変更の問題である。時間変更とは、ひとつのレヴィ過程の径数(時間ととらえる)を時間のみを計測する別の増加確率過程と置き換え、新しい時間のもとでの確率過程と考える操作である。歴史的にはすべて1次元で、従属操作と呼ばれた。最近径数空間が多次元、特に正定値行列の空間の場合が数理ファイナンスへの応用などで重要になってきた。その時間変更の問題について徹底的に研究するため、本研究費で、デンマークのBarndorff-Nielsenを招聘した。そして前島・佐藤3人で共同研究を行い、現在その成果をまとめているところである。一方径数空間が正定値行列の空間である場合は、その前段階として、正定値行列に値をとる無限分解可能分布の研究が必要になるが、その研究の手懸りも得た。 以上のように、完全に期待した結果はでなかったものの、問題の枠組みと動機付けがはっきりしたので、多次元径数レヴィ過程の研究の重要性をいろいろな機会を通じて宣伝し、このむづかしい、しかし大切な問題をさらに数学の新しい分野として育てていきたい。
|