研究概要 |
1990年に箱玉系と呼ばれる全変数離散型のデジタル・ソリトン系が得られ,その系が超離散化と呼ばれる手法によって差分ソリトン方程式の離散化から導かれることが1990年代半ばに発見された.本研究の目的は,この超離散化手法がどのような数学的基盤の上に成り立ち,どのような数理構造を提示しているかを明らかにすることである. 平成14年度は,キスペル系を中心とする差分可積分方程式に焦点を当て,その超離散化によって得られる超離散力学系のメカニズムについて研究を行った.まず,系のパラメータを特殊化することによって得られる再帰型の系については,従属変数の変数変換を通じて線形マッピングに帰着することが判明した.これにより,再帰型超離散力学系はほとんどすべてが線形化可能な非線形というクラスに属することが結論できる.さらに,一般のパラメータについては,相平面における各解軌道上で任意の初期値からの解の周期が常に一定であることを示すことに成功した.この成果は離散型の可積分系に対する新しい知見をもたらすものである. さらに,上記の超離散力学系に対して項の一部を変更することにより,極限軌道を持つような非可積分力学系を得ることができた.この系の特徴は,時聞発展とともに単調減少するエントロピーに相当する量を有していることであり,極限軌道への漸近過程をこのエントロピーによって示すことができる.さらに,超離散化を通じてこの構造が対応する差分系でも同じであることが判明した.この成果は,連続・離散力学系に対応物が存在することの例証となっており,力学系理論の発展に寄与するものである.
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