月がどのようにして誕生したか、なぜ我々の月は、他の衛星に比べて極端に大きいのか、は古くからある「なぞ」であり、多くの仮説が提唱されてきた。その中で、最も有力とされている「地球--月系の形成シナリオ」は、原始地球に火星程度の大きさの原始惑星が衝突し、その残存物質から月が形成されたという、「巨大衝突説」である。 本年度、我々はこの分野での草分け的研究であり、かつその後追試がほとんどされていないCameronのグループの数値計算法(SPH法)に疑問を持ち、彼らとはまったく異なる高精度の3次元Euler-Mesh数値流体コードを用いて、巨大衝突仮説の検証を行った。本年度はコードの改良と予備的計算(256の3乗格子点)を国立天文台天文学データ解析計算センターのスーパーコンピュータVPP5000を用いて行い、巨大衝突後約24時間の時間発展を追うことができた。この計算は、従来のSPHの粒子数数万個程度に比べて、2桁も計算点が多い。このため、衝撃波面と低密度領域の計算精度は大きく改善され、衝突時、衝突後に低密度領域に伝わる強い衝撃波によって、月材料物質の空間構造、温度構造が従来の結果と大きく異なることがわかってきた。また、衝突の際に、原始地球内部に強い衝撃波が伝わることもあきらかになった。一部の結果については、2002年7月に東京で開催された国際シンポジウム「Numerical Simulations in Astronomy 2002」の招待講演の中で和田が発表した。
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