熱的に不可逆な光誘起現象(光分解・光重合・フォトクロミズムなど)を示す物質や光照射に弱い生体系試料などの動的過程の研究に有用なフェムト秒領域の時間分解能を持つ周波数・時間情報を同時計測できるイメージング分光装置の開発を行った。 本分光装置の原理は、フェムト秒再生増幅レーザから発生した励起光とプローブ白色光を角度をつけて線状に試料に集光し、試料の右端と左端で光路差をつけることにより光遅延時間を発生させ、試料通過後のプローブ白色光を2次元CCD検出器付分光器の入射スリット上に平行に集光し分光することで、測定物質の吸収変化や蛍光強度の周波数及び光応答時間特性を同時計測するというものである。今年度は、この分光装置を研究室レベルで立ち上げ、その基本性能を評価することを目指した。 励起光とプローブ白色光の角度を約30度とし、1300x1340ピクセルの2次元CCD検出器を用いて光学系・検出器系を立ち上げ、非線形光学材料として期待されるガラス材料の光カー効果(非線形屈折率)の周波数-時間応答特性を測定した。その結果、400-750nmの波長領域、〜10ピコ秒の時間領域の幅広い範囲の光カー信号強度の波長・時間特性が、わずか1〜2分間の露光時間で同時測定できることがわかった。この測定時間は、データを各遅延時間ごとに繰り返し測定する従来の分光法に比べ1/100以下である。このため、レーザの長期的な安定性の維持や長時間のレーザ照射による試料の劣化など従来の手法が抱える問題点を一切気にすることなく、光誘起現象の動的過程の測定が可能である。したがって、この装置の有効性・汎用性が確立すれば、生体系材料・有機系材料の光機能性の評価に多大な威力を発揮するものと思われる。 また今後この装置の詳細な評価の際に標準試料として用いるベータカロチン・酸化亜鉛の吸収変化や蛍光寿命の時間・周波数特性を従来の分光手法により明らかにした。
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