物質中での光パルスの伝搬は、波数kとエネルギーωの分散関係がわかっていれば、基本的に理解できる。しかし、共鳴領域におけるフェムト秒パルスの伝搬では、パルスが単純に群速度で伝搬するという描像は成り立たなくなる。半導体・絶縁体での励起子共鳴領域では光パルスは励起子ポラリトンとなって物質内を伝搬するが、ポラリトン以外にも奇妙な伝搬波形が2種類観測されている。それは、ポラリトンパルスの前にそれよりも速く伝搬する比較的大きなピークと真空中の光速よりも速く伝搬しているように見える小さなピークの2つである。 本研究の研究目的は、観測された二つのピークの起源を明らかにする、ことにある。その起源を調べるため、次の研究を行った。 (1)透過波形の時間分解スペクトル波形を測定し、二つのピークのスペクトル成分を調べた。この結果より、速く伝搬する成分のうち大きな方のピークは低周波数成分から構成されており、20世紀の始めに理論的に研究されていたプリカーサーであることが判明した。 (2)入射パルスのエネルギー、強度、パルス波形、および試料の温度、厚さなども変化させた系統的な実験を行い、入射パルス依存性、試料依存性を調べた。プリカーサーは線形伝搬現象であるため、強度に対して線形に増大することが確認された。また、パルスのスペクトル形状の裾に非常に敏感で、裾の形と分散曲線の関係でプリカーサーが見えるかどうかが決定されることが判明した。 (3)これらの系統的な実験結果をもとに伝搬方程式を用いた解析を行い、プリカーサーが観測される条件を導いた。
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