非平衡定常状態における熱統計力学の構築に関して、以下の研究成果を得た。 (1)液体中にあるマイクロメータサイズの粒子が周期ポテンシャルの影響をうけつつ一定の非平衡駆動力が与えられた場合に実現する非平衡定常状態をとりあげた。微分易動度と拡散係数の比が系の長距離の振舞を支配する有効温度として捉えれることを理論的に示し、具体的に、微分易動度と拡散係数を測定せずに、その比である有効温度を測定できることを示した。この成果は論文投稿中である。(cond-mat/0309618)。 (2)外力で駆動された格子気体模型を例にして、上記の結果の多体系への拡張を考察した。微小ポテンシャル場の応答の性質から有効温度を定義すると、それは一般には複素数になる。そのさい、線形応答領域での多体系のEinstein関係式において、環境の温度をその複素有効温度の実部にいれかえたものが非平衡定常状態で成り立つことを数値実験と現象論的解釈により示した。また、複素有効温度の虚部は、密度揺らぎの伝搬速度、易動度、密度揺らぎと関係することも明らかにした。この成果は論文投稿直前にある。 (3)ついで、線形応答理論の揺動散逸定理がどのような形で平衡からはなれたところにどのように継承されるのかを調べた。通常の応答関数の他に随伴応答関数という新しい応答関数を導入することにより、この2種類の応答関数と時間相関関数が複素有効温度で結ばれることを見出した。この成果は論文投稿直前にある。
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