本研究では、従来、Kramers-Fokker-Planck方程式による溶質分子の取り扱いで仮定されてきた一定の温度をもつ熱浴の自由度を拡張して、分子内座標の関数であるメソパラメータを複数個導入して、分子熱浴に接した多原子分子系のKramers-Fokker-Planck方程式を構築した。そのためにZubarevの非平衡統計分布関数の方法を適用して、モデル反応系に温度勾配を導入した。その結果、構造化された分子熱浴に関する情報を分子内ダイナミクスに部分的に付加することが可能となった。こうした定式化に基づく非平衡非定常熱浴の概念は、将来のメソ分子反応理論の確立にむけたキーポイントとなるはずである。 分子熱浴に接した多原子分子系のKramers-Fokker-Planck方程式の構築は、MD法と連携して初めて可能となり、非平衡非定常分子運動の解明にむけたアプローチの一つになるものと思われる。具体的に、自由エネルギー面上での平衡点近傍で、凝縮反応系における基準座標系{Q}を取り出し、自由エネルギー面を{Q}を用いて表現して第0近似のKramers-Fokker-Planck方程式を設定する。またメンシュトキン反応や水表面でのアンモニアの溶解過程などを例に、凝集反応系における非平衡非定常ダイナミクスの本質を数値計算を通して探索した。その際、あくまでも現実系に密着した方針をとり、周期境界条件下のab initio分子動力学法やMD-QM/MM法を実行してダイナミクス情報を取り出した。
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