研究概要 |
レーザー冷却の技術はすでに原子の系に適用され、BECの実現等ここ数年の間にめざましい成果を上げている。しかしながら、分子には原子には存在しない振動・回転の内部自由度があるため分子をレーザー冷却した例はない。しかし、我々はある種の対称性の高い分子ではレーザー冷却を行うためのクローズドサイクルを実現することが可能であることを見いだした。例えば、メタン分子の対称性は点群T_dに属し、4つの基準振動モードを持つが。基音振動数が最小のV_4モードを用いれば振動遷移としてクローズドサイクルとなる。さらに、このモードは赤外活性のF_2対称性を有するのでT_dの対称性とパウリの原理によって、光学許容遷移にはΔJ=±1以上にも厳しい制限が課せられる。例えば、J=0の状態から出発してV_4振動励起状態のJ=1の状態に励起したときに、基底状態のJ=2へ落ちる過程が絶対禁制となり、必然的にJ=0だけに戻るクローズドシステムとなる。すなわち、これまで原子にしか適用されなかったレーザー冷却の手法が、原理的に分子にも使えるということである。今年度はこれを実証する研究を行った。 1、分子ジェット中のメタン分子の赤外スペクトル観測と冷却サイクルに用いる遷移の選択。現有の分子ジェット装置を用いて、メタン分子を数度Kまで冷却し、J=0,1,2のいくつかの遷移について、スペクトル線の分裂の様子を実測する。K縮重が解け、ドップラー幅より大きく分裂する吸収線の中から、レーザー冷却に最も適した遷移について実際のスペクトルを測定した。その結果、振動回準位は絶対温度で1Kまで冷却できたことを確認した。 2、メタンを極低温ヘリウム気体との衝突で4Kまで冷やす予冷セルのプロトタイプでメタンの回転遷移の検出を試みたが、サブミリ波領域のマイクロ波分光ではまだ検出できていない。
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