研究概要 |
気相の原子に対するレーザー冷却の技術は確立されているが、分子には原子には存在しない振動・回転の内部自由度があるため分子の系にレーザー冷却を適用した例はない。しかし、我々は対称性の高いメタン分子分子ではレーザー冷却を行うためのクローズドサイクルを実現することが可能であることを見いだした。しかしながら、赤外活性の準位といえ、その振動励起状態の自然発光寿命は100m秒と電子遷移と比べて5桁も長いことと光子の運動量が小さいため、室温300Kからのレーザー冷却のためには10^5秒という非現実的な時間を要するので困難であることがわかった。そこで、別の方法で分子を1Kまで冷却すれば、レーザー冷却に要する光子数は300個と激減するので、先ずはこれを実現することが先決と判断した。そのために、1)分子ジェット、2)バッファーガス冷却、3)電場を用いたシュタルクトラップ装置を試作した。 1)分子ジェット中のメタン分子の赤外スペクトル観測と冷却サイクルに用いる遷移の選択。現有の分子ジェット装置を用いて、メタン分子を数度Kまで冷却し、J=0,1,2のいくつかの遷移について、スペクトル線の分裂の様子を実測する。K縮重が解け、ドップラー幅より大きく分裂する吸収線の中から、レーザー冷却に最も適した遷移について実際のスペクトルを測定した。その結果、振動回準位は絶対温度で1Kまで冷却できたことを確認した。 2)、メタンを極低温ヘリウム気体との衝突で4Kまで冷やす予冷セルのプロトタイプでメタンの回転遷移の検出を試みたが、サブミリ波領域のマイクロ波分光ではまだ検出できていない。そこで、メタンの変わりにアンモニア分子を用いて同様の実験を行った。その結果、J=1-0の遷移を600GHz帯で観測することができた。 3)シュタルク効果を用いた四重極ガイド低速分子フィルター装置を製作した。
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