我々が世界に先駆けて開発した高速原子間力顕微鏡をタンパク質などの生体高分子の機能ナノ動態撮影に実用化する上で障害となる装置上の問題点を解決するとともに、特定の試料対象に対してその基板への固定法などを開発し、高速原子間力顕微鏡をタンパク質の新しい研究手段にすることを本研究は目指している。14年度の研究においては 1)試料・探針間に働く力を軽減し、脆い試料でもダメージを与えずに連続的に何フレームでも撮影できるようにすること。 2)Caged化合物を利用して、基質を短時間に生成させ、その基質との相互作用で生ずるタンパク質の構造変化を捉えること。 3)アクチン・ミオシン系、マイクロチュービュル・キネーシン系の基板への固定法を確立すること。 の3点を目指した。(1)の点については、フィードバックを動的に変化させる手法により、カンチレバーの振幅の目標値を最大振幅(試料と接しない場合の振幅)ぎりぎりまで近づけても振幅を目標値にすばやく一致させることに成功した。この結果、探針・試料間にかかる力を軽減することができ、それ故、脆い試料であるマイクロチュービュルを壊さずに連続的にイメージングすることに成功した。また、マイクロチュービュルに結合したキネーシン分子が運動する様子を観察することができた。このことは、探針がキネーシンを何回タッピングしてもキネーシンの活性が失われていないことを意味し、重要な成果である。(2)については、Caged-Ca^<2+>、Caged-ATPをミオシンVに適用し、ミオシンVに起こるダイナミックな変化を捉えることに成功した。特にATPase反応で観察されたミオシンV頭部の屈曲運動は所謂パワーストロークであることを強く示唆するものである。(3)については、マイクロチュービュル・キネーシン系では成功したが、アクチン・ミオシン系ではまだ条件が定まっておらず、今後の課題である。
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