研究概要 |
本年度は珪酸塩多結晶体としての岩石のサブソリダスでの組織形成において支配的な速度因子を洗い出すため、かんらん岩系の高温高圧実験および天然のハンレイ岩の組織解析を行い、以下の知見を得た。 1.最上部マントルにおけるH2O流体の分布状態を高温高圧実験によって検討した。1)ダナイト・ウェーライト系では流体形状は結晶の低エネルギー面に大きく影響をうける 2)Ol・Cpxが同程度の粒径を持つ場合でも、流体との界面エネルギーの差によって流体分布の相による偏りが生じる 3)岩石中における流体の分布を界面エネルギー極小原理(MEMF)のみでは正確に推定できない。しかし,流体の分布に関する粒径効果が確認され、粒界移動速度の流体量依存性の相互作用が重要な役割を果たしているものと考えられる。今後は岩石中における流体の分布を,流体分布と粒成長の相互作用といった観点からも議論する必要がある。 2.阿武隈山地宮本深成岩体の斑レイ岩中には斜長石のみが選択的に集合したドメインが含まれる。合体集合部分は局所的な組織平衡に達していたと考えられる。個々の斜長石にはconcentricな累帯構造が残されており、累帯構造から推定される火成ステージでの結晶粒界と、現在観察される結晶粒界とが合致しない。斑レイ岩中の斜長石monomineralic domainでは冷却過程で組織平衡に向かう粒界移動が起こったと考えられる。EPMAによるAlの面分析と反射電子像に見られる累帯構造からオリジナルな結晶粒界位置を推定し、それと現在の結晶粒界との間隔を測定した。この結果、斜長石の結晶粒界は大きい場合で約20μm程度移動したと推定される。斜長石コア部とリム部の境界付近の累帯構造から、時間平均した斜長石のNaSi-CaAl拡散距離は数ミクロン程度と概算できるので、粒界移動距離はこれと同程度〜1桁程度大きいことになる。
|