本年度は環境水銀の分布調査を簡便に行う手法を検討し、発生源との関係およびその指標となる植物の選定法の評価を行うため次の研究を行った。1)微量水銀分析装置の作成と植物試料の分析法の確立、2)水銀の自然発生源や人為発生源の特定、それらに関係した3)環境水銀の植物による濃縮とその部位や植物間の濃縮度の相違に関する予備調査。 作成した装置により自然発生源である東北地域の温泉水と地熱系気体中の水銀量の差異ならびに人為発生源である車の排気ガス中の水銀量や火力発電所周辺の大気水銀量を明らかにした。さらに、松葉中に水銀が濃縮されていることを見出した。また、同一場所に隣接する松、アメリカ杉およびモミの木を用いて、植物間の葉中の水銀量を比較した。もみの木と松の葉は、ほぼ同一水銀量を含むが、アメリカ杉の葉はそれらの約2倍量の水銀を含むことが判明した。しかし、松葉は乾燥しにくく取り扱い易くかつ世界中に分布し、他の植物との誤認の恐れがないため環境水銀量の調査指標とした。9月末から11月にかけて実施した松葉による北陸や東北地域の環境水銀調査では、地熱地帯や火力・地熱発電所周辺および都市部で高く、山間部で低く、さらに水銀発生源が無い鳥海山頂の松葉は最低水銀量を与える明確なパターンが得られた。このことにより環境水銀は大気から松葉に濃縮されており、大気の水銀汚染度が松葉を用いて観測できることを明確にした。今年度の日本地熱学会でこれらの結果を発表した。また、松の葉より葉の付け根、さらに幹部に水銀がより濃縮されていることを見出し、年輪水銀分析により環境水銀変動が推定できる可能性を明らかにした。現在、年輪水銀の分析に向けて、年輪の保管・処理法を検討中である。
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