研究概要 |
本年度は,昨年度明らかした松葉(生葉)の水銀含有量に基づく東京・横浜を含む東東北地域の広域な環境水銀分布の解明に加え,前年から今年の2年間に成長した松葉は今年度1年間に成長した松葉の2倍の水銀含有量を示すことを明らかにし,松葉の水銀含有量が現在の環境水銀分布調査に有効であることを明らかにした.一方,下記の地域で伐採した松の年輪水銀では,1)同一年輪における成長速度の違い(北側と南側)による水銀含有量と,2)地上から異なる高さに位置する年輪の水銀含有量などの変動パターンの差異について検討し,どこでもほとんど同一の変動パターンが得られることを確認した.年輪水銀の研究対象とした松の年輪試料は,秋田市(大学構内),石川県能登半島羽咋市(農村地域)および大分県九重町(大岳地熱発電所敷地内)から採取した.秋田市の松からは過去約80年間の年輪が採取できた.昭和初期(1930年)から終戦(1945年)にかけて,水銀含有量が3倍程度まで増加し続け,終戦後の数年間に急速に1930年代程度の値にまで減少したが,戦後イタイイタイ病や水俣病などが発生した時期には再び昭和初期の約1.5倍に上昇した。その後,約30年前からは昭和初期の値の1/2程度まで減少し現在に至っている.また,羽咋市郊外で得られた過去約25年間の年輪水銀量は,農村部であることを反映して秋田市に較べて少ないものの,その変動パターンは同一期間内での秋田市のものに一致した.したがって,これらの変動パターンが,この期間の全国的な環境水銀の変動パターンである可能性を示した.さらに、九重地域の松の年輪水銀もこの地域の地熱開発の変遷を反映することを確認した.これらの研究結果によって,松の葉とその年輪の水銀含有量が,過去から現在までの地球規模での環境水銀変動の推定に有効な指標になることが明らかになった.
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