研究概要 |
本研究の目的は,レーザー励起三重項分子の動的核偏極を用いたNMR信号の増大化の方法を,溶液状態の試料に適用できるようにする初の試みにチャレンジすることである.本研究では溶液にする前の固体の段階で出来るだけ大きな核偏極を作成することが望ましいために,まず,すでに我々が粉末状態での感度向上に成功しているペンタセン分子をp-ターフェニルにドープした試料において,現有の装置を用いた粉末状態の水素核磁化の最大化に取り組んだ.ドープされる試料の候補としては,ナフタレンも考えられ,実際,大きな偏極が得られているが,この試料を選んだ理由は,ナフタレンに比べてペンタセンのドープ濃度を高くすることが出来るために,室温で最終的に得られる偏極を大きくすることが出来るのではないかと考えたからである.ところが実際に検討してみると,p-ターフェニルにおいては,水素核のスピン格子緩和時間がナフタレンよりも短く,磁化の減衰が速いことが分かった.これは,192Kでの平面/非平面の構造相転移に伴う臨界揺動によるものであり,これの影響を軽減するために,中央のフェニル環を重水素化した試料を合成し用いる実験も行ったが,緩和時間はそれほど長くはならなかった.そこで,現在は,ナフタレン/ペンタセンの単結晶試料に対し,レーザー照射により励起三重項状態を作成し,マイクロ波照射で動的核偏極を起こして,大きな水素の磁化を作り,この単結晶試料を二硫化炭素などの溶媒に速やかに溶解させ,溶質のナフタレンの水素から,核オーバーハウザー効果(NOE)による溶媒の二硫化炭素の炭素13への磁化の移動がおこるかどうか検討している.
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