研究概要 |
本研究は,追加採択により平成14年11月から開始されたものであり,近赤外吸収分光法を用いて,薄膜・毛管化した水分子クラスタの分子間水素結合状態の解析を進めることにある.測定の根幹をなす吸収スペクトル測定では,0-H伸縮振動の第二倍音領域において,短波長側へのスペクトルシフトが観測され,スペクトル解析の結果,薄膜・毛管化した水分子クラスタ構造がバルク状態における構造とは異なり,分子間水素結合数が0と4の分子種が増加し,結合数が1と3の分子種が減少するという新しい結果が得られた.海外共同研究者の一人,イギリス・ケンブリッジ大学・化学科のPaul B.Davies教授との議論では,倍音測定に見られる非線形性が生じているとすれば,スペクトルシフトとして観測されるのではなく,スペクトルの広がりとして観測されるはずであると指摘され,何らかのポテンシャルの変化が生じているものと考えられ,さらに議論を進めている. 一方,実験面ではまず測定に用いる純水の純度を十分向上させることを行い,超純水製造装置を導入するとともに,金属イオンの混入と滞留を防止するために,超純水循環システムを付加した白金線キャピラリによる毛管水測定システムを製作し従来と比べて格段に測定再現性の優れたスペクトル測定を行うことが可能となり,測定されてきたスペクトルシフトが各種の汚染物質や金属イオンの混入によるものという可能性を払拭することができた. 平成15年2月に行ったイギリスとフランスへの海外共同研究者との議論のための海外出張では,海外共同研究者として上述のPaul B.Davies教授以外に,イギリス・マンチェスター大のDr.Imtiaz K.Ahmad, Dr.Mark R.E.Jones,フランス・国立高等科学研究所のDr.Francis Muguetらともこのようなスペクトルシフトと解析結果に基づいて,考えうる水分子クラスタのモデルについて大いに議論を深めた.それらのうち,Dr.Imtiaz K..AhmadとDr.Mark R.E.Jonesとの議論では,生体の神経組織内の微小管内の水分子クラスタ構造との関連性について議論を深め,Dr.Francis Muguetとの議論では,妥当性のある解析結果を得ることが可能であるとの結論に達した.
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