研究概要 |
研究代表者は、酸化-還元系による有機分子の活性化に着目し、1964年に代表者らが開発した酸化-還元系による縮合反応をさらに発展させ3価のリン化合物を還元剤として用い、また従来その可能性を指摘されながら具体的に酸化剤として用いる例が知られていないキノンを酸化剤に用いる新しい有機合成反応の可能性を掘り起こす研究について興味ある展開を実現できた。 研究代表者は、アルコールから3価のリン化合物であるアルコキシジフェニルホスフィン(1)を調製し、キノンを用いてこれを酸化的に活性化して、これにカルボン酸を作用させて対応するカルボン酸エステルの合成を検討をした。その結果、2,6-ジメチル-1,4-ベンゾキノンがアルコキシジフェニルホスフィン(1)に対する良好な酸化剤であり、カルボン酸を作用させると中性条件下で反応し、リンが酸素を伴って脱離すると同時に対応するアルキルエステルが高い収率で得られることを明らかにした。なお、より強力なキノン系酸化剤である2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノンは化合物1に対する活性化剤としては不適当であり、望みのエステルは生成しないことが分かった。 この新しい酸化・還元系による脱水縮合反応によって様々な種類のアルコールを効率的に活性化することが可能であり、またこの求核置換反応は完全に立体反転を伴って進行することが明らかになった。特に注目すべき点は、従来は困難とされていた第三級アルコールも効率的に活性化され、対応するエステルが高収率で得られることであり、この研究によって、穏和な条件で第三級アルコールエステルを収率よく合成することができる画期的手法を開発することができた。
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